FC2ブログ

デメント家です。


前回、ギンガとのダウンタウンデートにて、彼からの思いがけないプロポーズに激しく動揺したダニエラさん。
ギンガの気持ちを冷たく拒絶したものの、その心は晴れません。


憂いのダニエラ


ぼんやり外を散歩しながら、ダニエラさんは考えます。

あんなふうに、ギンガの想いを否定してよかったのだろうか?
彼の気持ちを傷つけない、もっとましな言い方があったのではないだろうか?


ギンガの決意を、鼻先であしらうように拒絶してしまった自分。
あのとき、深く傷ついたらしいギンガの顔が今も忘れられません。



でも……。
プロポーズなんて。

だいたいギンガと深い関係になったのだって、フィオナとクラウスを結婚させたかったからです。
クラウスの息子であるギンガを味方にしたほうが都合がよいと思ったからこそ、色仕掛けで彼を引き入れたのです。

なのに、肝心のフィオナとクラウスの仲は冷え込むばかり……。
その一方で、便利な駒だったはずのギンガがダニエラにプロポーズだなんて、笑ってしまいます。
そんなことより、ギンガには大学でたくさん勉強して、いいキャリアに就いて欲しい、……良家の令嬢と幸せな結婚をし、この先の人生を実り多いものにして欲しかった……。
ダニエラはそんな彼の人生における、ささやかな彩りでよかったのです。


憂鬱


人生なんて、頭で思い描くようにはうまくいかないもの。
最近のダニエラさんは、そんなことばかり考えてしまいます。

今度ギンガに会ったとき、どんな顔をして会えばいいのだろう?
彼は、いつものように笑いかけてくれるのだろうか?

彼のことを考え始めると、ダニエラさんは胸の奥が引き絞られるように苦しくなりました。





そんなある日。
いつものように家事に勤しんでいたダニエラさんは、急に込み上げてきた吐き気にトイレに駆け込みます。
そして、


吐き気


トイレに這いつくばって、朝食べたものを全部吐いてしまいました。

実は、ダニエラさん。
最近、食欲も落ちていて、自分でも体調がすぐれないとは薄々気づいてはいたのです。
でもそれもこれも、ギンガのことを思い悩んでいるせいだとばかり思っていたのですが……。


まさか?

ダニエラ「まさか……」


呆然とつぶやくダニエラさん。
頭の中では、ぐるぐるといろんなことが回っています。
最後にギンガと会ったあのダウンタウンデートから三ヶ月近く……。
ダニエラさんも女ですから、これが意味するところはわかっているつもりです。

家事の合間を見て病院に診察に行くと、先生から 「おめでたですよ」 と言われました。
やはり。
そうじゃないかと思ったとおり、ダニエラさんのお腹の中には新しい命が宿っているようです。





病院から帰るなり、ダニエラさんはフィオナをつかまえました。


決意のダニエラさん


「フィオナ、あんたには悪いけど、あたしはこの家出ていくよ」
「えっ、いきなりどうしたの?」
「いきなりでもなんでも、そう決めたんだ」
「あなたが決めたのなら、それはいいの。でも、どうして急にそんなことを言い出したのか、理由だけでも教えて」



実はダニエラさん。
前のご主人様との契約で、一生フィオナのメイドとして尽くさなければいけないことになっているのです。
その契約が反故になるのは、フィオナが人生の伴侶を見つけたときのみ。
だから、あんなにもフィオナとクラウスの結婚に必死だったわけですが、今はそんな悠長なこと言ってられる状況ではありません。

理由を言わないと、フィオナは家を出ることを許してくれないでしょう。
ダニエラさんは心を決めました。


フィオナの反応


「あたし、妊娠したんだよ」
「ええっ?!」
「そんな体で、この家にはいられない。だから出て行くんだ」
「まあ、ギンガくんとの赤ちゃんね?」
「……っ……」
「おめでとう、ダニエラ! ギンガくんもきっと喜ぶわよ? 彼が大学卒業したら、結婚しちゃえばいいじゃないの!」
「ば、馬鹿言うんじゃないよ!」
「どうして? ダニエラだって、ギンガくんのこと愛してるじゃない?」



言葉に詰まるダニエラさん。

ダニエラだって、ギンガくんのこと愛してるじゃない?

そう、だからこそ悩んでいる。
愛しているからこそ、相手の将来を……幸せを願っている。
まだ若い人生、若い未来を、自分のためなんかのために消費させたくない。
妊娠のことを知ったら、ギンガがどう出るのかもわかっていた。
だから……。
逃げなくちゃいけない。


「愛してる……から、身を引くってこともあるんだよ。特にあたしは主人持ちの身で、一生あんたに仕えなきゃいけない奉公人だ。ギンガと結婚なんかできるわけないだろ……」
「でも、ダニエラ……」
「ギンガの気持ちはもう十分もらったよ。こないだね、あの子、あたしにプロポーズしてくれたんだ。……本当はうれしかった。でも、あたしなんかが結婚なんかできるわけないってこともわかってた。だから断ったよ。あたしはあの子のその気持ちだけで死んでもいいくらい幸せだから……」
「ダニエラ……」
「お腹の子は、大切に育てるよ。ギンガがくれた大切な命だ。今、このお腹にいてくれることすら愛おしいよ。……ただ、子供のことを知られるとギンガが引かない恐れもあるから、知られる前に家を出たいんだ。あんたとベロニカの面倒はしばらく見れなくなって申し訳ないと思うけど……」



フィオナはしばらく黙ってダニエラの顔を見ていました。
彼女なりに考えているのでしょう。
そのダニエラの顔に強い決意が滲んでいるのを認めて、フィオナはやっと口を開きました。


「わかったわ、ダニエラ。もう止めない」
「フィオナ……」
「わたしたちも、あなたと一緒に出るわ。お腹の大きなあなたを、一人で放り出すなんてできない」
「な…、何言って……」
「ギンガくんから逃げたいのよね? 大丈夫、この家を売って、どこかひっそりとした街に引っ越しましょう。心配いらないわ、全部わたしに任せて。ダニエラが落ち着ける静かな場所で、元気な赤ちゃんを産めるようにするから……」
「フィオナも家を出る…って、そんなことしたらもうクラウスに会えなくなるんだよ?!」



そうです。
クラウスはギンガの父ですから、ギンガから逃げるとなるとクラウスとも当然連絡は取れません。
フィオナは自分の言ってる意味を本当にわかっているのでしょうか?

ダニエラにしても、フィオナから愛する人を、ベロニカから父親を取り上げようなんて思いもしなかったことです。


「クラウスのことはもういいの。あたしにはベロニカがいるし、ダニエラもいるわ。二人とも、わたしの大事な家族なのよ」
「家族……」
「そうよ、ダニエラ。わたしたちは家族。だから、あなたがここを出るというなら、わたしたちも一緒行くわ。こういうとき、助け合うのが家族でしょ?」



家族……。
フィオナの言葉に、涙ぐむダニエラさん。
二人はどちからからともなく、抱き合ったのでした。


家族の抱擁

ダニエラ「ありがとう……フィオナ…」


ちょうどそんなところに、ベロニカが学校から帰ってきました。
すぐに引越しの準備にかからねばいけないため、ベロニカにも引越しのことを告げておかなければなりません。
学校のお友達とも離れ離れになるため、ベロニカは素直に聞き分けてくれるのでしょうか?


知らせ

ベロニカ「えっ、お引越しするの? いつするの?」


「準備さえできれば、すぐにでも♪ 学校のお友達には明日お別れのご挨拶をしてくるのよ?」
「はーい。……ねえねえ、ママ。お引越しはダニエラも一緒よね?」
「もうろんよ。だってダニエラは家族ですからね」
「わーい♪ お引越しかぁ。ベロニカ、初めてだからワクワクしちゃう」



愚図るかと思っていたベロニカは案外あっさりと納得してくれました。
ちょうど私立校に転校させようと思っていたので、転校自体には抵抗がなかったようです。
よかった、よかった☆



家族のキス


今まで、家族もなく一人ぽっちで生きてきたダニエラさん。
フィオナに対しては冷たく当たっていたときもありましたが、一番身近にこそ自分のことを考えてくれる人がいたということにやっと気づけました。

あたしにも、家族がいたんだね……。
こんな身近に、大切な家族が。


ダニエラさんはそっと呟いたのでありました。


Secret